いやいや、しばらくっ!
先日ベランダで生まれた鳩の兄弟が、ついに巣立ちした模様だ。成長してからは1日に数回、ベランダに帰ってきていたが、もう戻ってこなくなったのだ。そうか、もうこの広く険しい野生の世界に、飛び立っていったのか。
鳩との出会い
思えば巣立ちまで、大変短かった。タマゴをみつけたのは、約1ヵ月半前くらいの出来事である。・・・・
最近やけに明け方になると鳥の鳴き声で目が覚める。甲高い声ではないのだが、唸るような鳴き声と羽音。しかも近距離から。間違いなく家のベランダからだった。不思議に思ってベランダを覗くと、一匹の鳩と目が合った。とっくの昔に枯らしてしまった観葉植物の大きな植木鉢の上、ふかふかな土の上にいた。
そのときは、お!珍しっ、でもまぁそんなこともあるかぁ程度に思っていた。しかし外を覗くたびに、この鳩と目が合って、一瞬緊張が走るという日々が続いた。やがて2つのタマゴが見つかった。
お父さん鳩、お母さん鳩
タマゴに気づいたぼくらは、温かく静かに見守ってやることにした。本当は少しくらい近づいて写真に収めたかったが、彼らに警戒心を与えすぎて育児放棄させてしまうことは避けたかった。だから、この時の記録はない。
ただ言えることは、お父さん鳩、お母さん鳩が大変そうだった。タマゴを見つけた頃から、タマゴを温めている鳩のすぐ近くに、辺りを警戒するようにベランダの外を眺めている鳩がいた。お父さん鳩なのかもしれない。それは雨の日も晴れの日も。
やがて、2匹とも留守にしている日も増えてきた。タマゴは安定期に入ったのだろうか。ということは孵化が近いのかもしれない。
ヒナ誕生
すぐには気づかなかった。しかし、お母さん鳩の下にもぞもぞと動く物体を発見した。知らぬ間に生まれていたのだ。それも2匹。まだ毛も生えていないヒナだった。そして、そこからのお母さん鳩、お父さん鳩は、更に大変そうだった。
ただひたすらせっせと餌を与える。おそらく片方がヒナの面倒をみている間に、もう片方は餌を探し、戻ってきたら餌を与えて交代。そんな子育てをしているようだった。交代の度にヒナたちがピヨピヨと叫ぶので、大変だなぁと感じる。
成長したヒナ
やがてヒナは大きくなって黄色の体毛が生えてきた。それが以下の写真である。この辺りから親鳩たちが留守にすることが多くなったので、シャッターチャンスは増えたのである。とはいえ、遠くからだ。
二人より添って可愛い。つーか鳩のヒナって、こんな感じなんや。この時は7月8日である。
完全に大人になったヒナたち
そしてそこから約1ヵ月経った8月2日のヒナたちの姿が以下の通りだ。
もう完全に成体である。この頃は植木鉢の上から飛び降りちゃって、ベランダ中を兄弟二人で駆け回っている姿を何度か見かけた。そしてふと、ぼくが見ていることに気づくと、一生懸命駆け足で植木鉢の隅に隠れていったのだった。
近辺を飛び回ることはしているのだろう。ベランダに一匹とて鳩がいない時も増えた。巣立ちしてしまったのかと思ったが、夜には兄弟二人でスヤスヤと植木鉢で眠っている姿はあった。
巣立ちのとき
もう巣立ちは近いのだろう、そう思っていたある日、キッチンの窓から外を眺めると、2匹の鳩がとまっているのに気づく。3年間ここに住んで、キッチンから外を眺めてきたが、これまでこんなところに鳩が止まっているのは見たことがない。
よくみると、ほんの少し黄色い体毛が残っていた。あのヒナたちに違いなかった。近づいても、カメラをつきつけても全く逃げない。ただこちらをジッと見つめてきた。妻と一緒に、大きくなったなぁと感動した。いつまでも逃げなかった。夕食を食べて戻ってくると、いなかった。
彼らを見たのは、これが最後だった。
ベランダに、鳩の姿はもうない。
妻はいった。
"あれはきっとお別れを言いに来たんやん。寂しい~"
"そんなわけないやん。たまたまやろw"
そう返したぼくは、大空を飛ぶ鳥の姿を探した。