しげログ

元ひきこもりなのにヨーロッパで生活している元ひきこもリーマン

絶対売れないストリートミュージシャンに救われた話

 

 さて本日も元気に新入社員時代の暗黒手記を投下。しかし今回は仕事の話はしていない。ただ孤独な土曜日の夜を過ごした、それだけの話。あのストリートミュージシャン、今はどうしているのかな。

 

~~2017年8月12日(土) 20時頃~~

 

 家に独りでこもりつづけていると、夕方になったときに絶望的な気分になってくるよね。ほんと何なんだろう。ぼくは誰とも会いたくないのだが、それでもやっぱり人に会わないといけないのかなぁ、と思う。

 

 例えば、趣味を通して、誰かに出会うというのはどうだろうか。しかし、趣味といえるほどのものもなく。何も持ち合わせてない男ですから、ぼくは。こうして感じている絶望感に対する具体的な解決策もない。当面のそれを拭うために、僕は出かけることにした。ひとりで夜の神戸を散歩することにしたのだった。

 

 適当に阪神三ノ宮駅で下車する。なんとなく以前から好きなメリケンパークへ向かって、とぼとぼ歩く。特に目的も何もない。三ノ宮は思ったほど人は多くなかった。神戸の中心街。偉くオシャレなところを、わたくしめのような小汚い豚が歩いていいものだろうか。

 

 夜の街は、とてもきれいだった。メリケンパークに向かう途中にある歩道橋から、その下を流れていく車を、ただ眺めた。どの車も行くべき場所があって、それに向かって走っていることが不思議だった。こんな時間帯に歩道橋の上でそんなことしていると、なんとなく良くないことを考えている奴だと思われそうだったので、すぐに歩みを進めた。

 

 やがてメリケンパークに到着した。メリケンパークとは、横浜で言うと"みなとみらい"?みたいなもんか?要は港町だ。来てみると、やはりカップルばかりだった。ある程度は想像していたものの、何となく独りでいることが恥ずかしく感じてきたので、即退散したくなった。


 一抹の居心地の悪さを感じつつも、ぼくは夜の海を眺めるためベンチに座った。隣のベンチには今夜の宿の話をしているカップルもいて惨めになった。更に他のカップルが散歩させている犬が近づいてきて、ぼくの足に向かって片足を上げたので、慌てて避けた。何やってんだぼくってなった。

 

 しかし暗い海は、静かに、寄せては引いて、寄せては引いて、白波も音もなく、繰り返していた。ミルクをかけてスプーンですくえるような、つるつるとしたコーヒーゼリーのようだった。このまま海原へ歩いて行って、水平線を追いかけたいと思った。

 

 いい加減に帰ろうと思い、三ノ宮駅へ向かう途中、腹の出た中年のサラリーマン風のおじさんが、ギターを弾きながら歌を歌っていることに気づいた。格好は、明らかに着古したジーンズとポロシャツだった。その出で立ちは、もともとコンビニへビールを買いに行こうとしたら、たまたまギターが落ちていたので拾って歌っている、そんな感じだった。メリケンパークという場所と、明らかにミスマッチだった。

 

 みんな夜景に夢中で、誰も彼に見向きすらしなかった。でも、ぼくはなぜかそんな彼に惹かれたので、近くのベンチに座って海を眺めるフリをして、しばらく彼の歌をきいた。良い歌でもないし、良い歌声でもなかった。

 

 それでも今夜は良い夜だなって思えてきたので、ぼくは立ち上がり帰った。