しげログ

元ひきこもりなのにヨーロッパで生活している元ひきこもリーマン

【司法書士】法律家を目指していた頃に見たドキュメンタリー

 

 ふと思いだした言葉がある。 それは、とある司法書士に密着したテレビのドキュメンタリーであった。大学1回生のころに観たと記憶している。だから、約10年くらい前であろう。

 

 「まぁっ、いろいろあるんでしょうね」

 

 その番組内で司法書士がいった言葉である。当時、それなりの正義感をもって法律家になろうと思っていたぼくは、その言葉をすごくかっこいいと思った。 

 

成年後見業務

 

 司法書士というと、登記のスペシャリストというイメージがあるかもしれないが、そのドキュメンタリーに出ている人は、登記業務ではなく、主として成年後見業務を行っていた。

 

 成年後見とは、認知症だったり精神障害の影響により、自分で十分に財産管理ができない人に代わって、財産の管理(契約や役所への申請等)を行うことである。高齢社会の日本にとっては、この役割はますます必要になっていく。

 

孤独死する高齢者

 

 当ドキュメンタリーでは、とある1人の高齢者の成年後見業務を取材していた。これまた十分に覚えていないのだが、当高齢者は少し認知症の傾向があるにも関わらず、子どもからの連絡・援助も一切なく、1人暮らしをしていた。

 

 とある日、当高齢者が突然に孤独死したことが発覚する。

 

 当司法書士は、当然に亡くなったことを、この方の息子に連絡した。すると、その息子は、なんとこのような返答をするのであった。

 

 「あ、そうですか。じゃあ、葬儀もそちらで行ってください。ガチャ」

 

 確か娘もいたはずだが、連絡しても返答がなかった気がする。けっきょく、その孤独死した高齢者は、親族が出席するような葬儀らしい葬儀もなく、公営の墓地?かなにかに埋められたような気がする。

 

 大筋は以上のようなストーリーだったと思う。

 

司法書士の冷静な一言

 

 正直、この一連の出来事を目の当たりにした視聴者にとっては、なかなかショッキングなことであろう。しかし、司法書士はいたって冷静に、淡々とこうした事態に対応していた。見方によってはかなりドライにも見えるだろう。

 

 しかし、こうした一連の出来事へのコメントをテレビクルーに求められたとき、当司法書士は、誰を批判するでもなく、こういったのである。

 

「まぁ・・・いろいろあるんでしょうね」

 

家族が絶対善とする価値観

 

 この言葉に、視聴していたぼくは、とても感動したのであった。

 

 もともとぼく自身、あまり立派な親をもっていない。若いころに気苦労したことは多々あったが、それはもちろんぼく自身の弱さが招いた点もあるが、両親からの影響もかなり大きい。いまとなっては、こうした人生に感謝できるが、当時のぼくには、できなかった。

 

 そして親への憎しみだけではなく、ぼくは「両親への感謝」を述べた手紙などに感動する世間一般にも、無性に腹が立っていた。家族が絶対に善だと思っているのだろうか。自分がまともな家庭に育ってきたから、そう思うだけだろ、と。

 

 そうした「家族は切っても切れないもの」という価値観が、機能不全家庭で生まれ育っている子どもたちを、どれほど苦しめていると思っているのか。学校でも平気で、親への感謝の手紙等を書かせたりする。家族へ疑問を抱くことを許さないのだ。

 

 そして、頭の中お花畑の健常者どもは、この番組への感想も、おおむね「なんて薄情な息子だ!」といったところだろうと思った。

 

 しかし当高齢者は、もしかしたら酷い親だったのかもしれないのだ。大部分の人が謳歌する青春時代に、この息子は大変に辛い思いをさせられてきて、やっと大人になって自立して、ようやく自分の人生を歩み始めることができたばかりなのかもしれない。そんな矢先の連絡だったら、どうだろう。

 

 この番組もきっと、一概には言えるわけでもないのにも関わらず、その息子を悪者に仕立て上げるつもりなんだろうなぁ・・・と諦めムードを抱いていた時、当司法書士はそういったのである。

 

 自分が果たせる役割とは何か

 

 「まぁ・・・いろいろあるんでしょうね」

 

 一見、テキトーな感想とも受け止められない一言である。しかし、彼の言葉は違った。

 

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息子が冷酷だとする批判もあるだろう。一方で、社会制度の不備もある。いろいろと憤怒もあるし、理不尽もあるだろう。それはわかっている。では、わかった上で、その中で自分が果たせる役割とはなにか?

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 実際に彼がそう言ってわけではない。しかし、当司法書士はそう自問自答しながら、葛藤も抱えつつも、粛々と今の自分ができる職務に臨んでいるように感じた。そして、ぼくは思った。今のぼくは、社会と両親に怒り狂っているだけの野獣にすぎない。

 

 それだけではダメである。両親にも社会にも腹立つことはあるだろうが、しかし現実として、そのように彼らは在るのである。そうであるものとして、自分に何ができるのか。

 

 そう考えなければならない。今の自分のままではダメだ。もっと成長しなくては。そう思いながら、アルバイトと勉強で疲れた身体にムチを打ち、司法書士試験の勉学に励んだ。

 

 この人のような法律家になろう、と。

 

=10年後=

 

 

 

ただの会社員

 

 

酒とゲーム以外やることなし

 

 

コミュ障

 

 

人生、美しくはならないね。